再開発とは│西山繭子の「女子力って何ですか?」

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西山繭子の「女子力って何ですか?」

#155

再開発とは

2020-09-21 02:17:00

 少し前からフラームの公式YouTubeチャンネルで『彼女たちの時間』がアップされています。フラーム所属女優の大人チームによるトーク番組で、出演メンバーは紺野まひる、吉瀬美智子、山口紗弥加、そして西山繭子であります。外出自粛期間中にアップした『My favorite moment』に引き続き、またしても一人だけ普通のおばさんがまじっている感が否めないのですが、恥を忍んで参加させていただいております。一見、女子力の塊のような絵面なのですが、実はそうでもない4人。撮影中はこんなにグダグダで大丈夫だろうかと心配になりましたが、編集とテロップの力で何とか形になっているのではと思います。みなさんお時間ございましたら、ぜひ見て下さいね。そしてチャンネル登録もお願いします。と慣れないことを言ってみる。そもそもチャンネルって何よ?ガチャガチャ回すところなんて、どこにもないじゃないのよ。この撮影の時も「普段YouTubeでどんなものを見るか」の話しになったのですが、YouTubeの撮影をしているというのに「まったく見ない」と言ってしまうあたり、今後も私がトーク番組に起用されることはないでしょう。柔軟に己を変えていかないと、どんどん時代に取り残されていくばかり。しかしここ最近は、馴染みのモノがめまぐるしいスピードで失われていくことに心が追いつきません。
 渋谷の東急東横店が85年の歴史に幕をおろしたのが今年の3月、そして先日は駅周辺の再開発に伴い、本家しぶそばまでもが閉店してしまいました。名前の通り、渋谷にある蕎麦屋です。それなのに、しぶそばなのに、渋谷からなくなるってどういうことよ。行ったことのある方はみなさんご存知でありましょうが、あの店の独特のオペレーションは国宝級とさえ思います。レジの店員さんが厨房に向かって注文を読み上げるその声は、まるで歌会のよう。「あしたば天~、海老二本つき~」これが私がしぶそばで最後に歌ってもらった歌でありました。隣にあった笹八というおにぎり屋さんも、コンビニのおにぎりを回避している私としては朝早くからやっていて有難いお店でした。本当に残念でなりません。それにしても渋谷ヒカリエが最新のビルだと思っていたら(開業して8年ですってよ、奥さん!)、駅の周辺にはいつの間にか渋谷スクランブルスクエア、渋谷ストリーム、渋谷フクラスなるものが建っていて、これ以上に再開発なんてされた日には、もう私にとっての渋谷はほぼ宇宙でありましょう。「このビルの屋上からはロケットが飛びます。そして、あのビルは巨大ロボになります」「ほほう、すごいですねー」そんな日はすぐそこまで来ているのかもしれません。しかしそのわりには、ちとせ会館がそのままなあたり、摩訶不思議な渋谷の良きところですね。大人の階段の途中にペンギンズバー(ちとせ会館に入っていたお店)があったという人も多いのでは。そして、この再開発の波は渋谷だけにとどまらず都内のいたる場所で行われており、しぶそばとのダブルパンチのごとく、新宿メトロ食堂街がまでもが今月で閉店とのこと。万世麺店のパーコーラーメンは言わずもがな、ここのタカノフルーツパーラーの居心地の良さたるや。しかし私の定番コースは、つな八のイートインスペースで天丼を食べて、豆とろうで豆あんソフト(わらび餅のトッピングはマスト)を味わうというもの。一人でさくっとな大人の時間。まわりを見渡せば、おじさんおばさんばかりです。インスタにあげるために料理にスマホをかざしている人なんて、いやしません。ああ、大人が行く店がどんどんなくなっていく現実。これは私がおばちゃんだからなのかもしれませんが、私の目には昨今の飲食店の多くが同じように映ります。こじゃれた木製のテーブルと椅子が並んでいて、こじゃれた料理がちょこちょこっと出てきて、こじゃれた味は可もなく不可もなくで。商業施設内にずらりと並んだ飲食店は、一見、選択肢がたくさんあるようだけど結局のところ隣の店でも向かいの店でも何ら変わらない。再開発という名の進化が、私の目には均一化にしか見えないのです。日本橋の榮太樓総本舗にあった喫茶室もリニューアルした結果、どこにでもあるオシャレカフェへと変貌を遂げ、大人気だった赤飯弁当も姿を消しました。この件については私の友人も悲しんでいましたが、無論その友人もおばちゃんです。新宿メトロ食堂街のあとには48階建ての高層ビルが建つそうです。そして2027年には東京駅前に63階建て390mという日本一高いビルができるとのこと。日本の人口は減少の一途をたどっているというのに、そんなにビルをたくさん作ってどうするのかしらと素人の私は首を傾げてしまうばかり。やっぱり巨大ロボットになるのかしら。己の老後がますます心配になってくる今日この頃であります。

2020.9.21 配信

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西山繭子さんのINFORMATION

Writer

西山繭子

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website