ヌーミレパーク(仮)│西山繭子の「女子力って何ですか?」

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西山繭子の「女子力って何ですか?」

#159

ヌーミレパーク(仮)

2020-11-22 19:34:00

 10月上旬、姉から「まーたんの分も予約しておいたから、あけておいてね!」というメールが届きました。一緒に送られてきたスクショには『ヌーミレパーク(仮)』の文字と指定の入場日時が書いてありました。ヌーミレパーク?何のことだかさっぱりわからず検索してみると『King Gnu × millennium paradeの世界を詰め込んだ展覧会』とのこと。概要にざっと目を通してから、姉に「あのー、私、まったく興味がないんですけど」と返信したところ「何言ってるの!?ヌーミレパークに行けるなんて、すごいラッキーなんだよ!まーたん、そんなこと言ったら地方のファンから刺されるよ!」という鼻息の荒いメールが届きました。そして「その日はお休みでしょ!あけておくように!」と強引に押し切られてしまいました。ああ、恐るべしKing Gnu。そうなんです。私の姉は、King Gnuの大ファンなのです。たぶんきっかけは長男が聴いていたとかだと思うのですが、気づけば母親の方が夢中になっていたようで、子どもたちが寝静まってからせっせと動画を見ては、私にどれだけ彼らの曲が素晴らしいかを報告してくれます。音楽やメンバーのことだけならまだしも「井口のお姉ちゃんが」「常田のおばあちゃんは」と彼らの家族の話を嬉々としてするあたりは、おばさん特有の女性自身的ノリだなと思います。わんぱく盛りな三人の男の子を育てながら仕事もして、日々カッサカサでヨッレヨレな姉。パンツに穴が開いていることさえ気がつかない姉。「そのパンツ、穴開いてるよ」「あ、本当だ。でも大丈夫」と何が大丈夫なのかよくわからない姉。その姉の人生にKing Gnuは間違いなく喜びを与えてくれました。姉のことが大好きな私としても、嬉しい限りですが、同時に寂しい気持ちもあります。だって姉の心が完全にニューキッズオンザブロックから離れてしまったから。中学生の時、私たちの部屋の壁はニューキッズのポスターで埋めつくされていました。それなのに今では私が「来年の7月にボストンでコンサートがあるよ!」と言っても「ふーん。ところでまーたん、King Gnuのチケットってどうにかならない?一生のお願いだから!」といった具合。一応、こんな私でも20年以上芸能界で仕事をしているので、何かしらの伝手をたどれば可能性は無きにしもあらず。しかし、そんな不正行為はいかんざき!ってことで、大好きな姉の頼みとはいえ丁重にお断りしました。そこで姉はチケットを取るためにファンクラブに入り、なんとまあ見事にチケットをゲット。狂喜乱舞して私に連絡をしてきたのですが、ここからが少々厄介で、如何せん、姉が最後に行ったコンサートは四半世紀前のエレカシin野音ということで「今のコンサートって何が持ち込み禁止なの?」と私に尋ねてきました。若い子のために説明しますと、昔はカメラ、テープレコーダー、ビデオカメラといった録音、録画ができる機器は持ち込み禁止でした。でも今やスマホの時代ですから、もう規制なんてできないですよね。「水筒は?」「えー、どうだろう。没収になったら面倒だからペットボトル持っていけばいいじゃん」「でも白湯が飲みたい」もう、おばさんのこだわりどころがよくわかりません。「会場って暑いの?寒いの?」「チケットが紙じゃないんだけどスマホが壊れたらどうしたらいいの?」「帰りの電車ってすごく混むんじゃない?」姉の心配は尽きることがありません。とはいえ、やはり当日はKing Gnuの世界を満喫したようで、一緒に行ったヌーミレパークでも「もう最高だったわー!」と興奮冷めやらずといった様子でした。しかし「でも常田も井口もさ、汗だくなのに上着脱がないのよ。風邪ひくよね」とお母さん目線も忘れません。ヌーミレパークの世界観は凡人の私には何だかよくわからなかったのですが、姉はすこぶる楽しそう。「あ、飛行艇のだ!写真撮って!」とオブジェの前でポーズをとる姉。「これはスランバーランドのPVで使っていた人形です」と私に説明してくれる姉。「キャプテンEOみたいだね」と言って眼鏡をかけて、3D映像から飛んでくる弾丸をその都度よけている姉。それら展示の中の一つにゲーム機があったのですが、いざ姉も挑戦することに。「ゲームなんて、パラッパラッパー以来だわ。できるかしら」そんな姉に係員のお兄さんは、とても親切に対応してくれました。「このゲームは右に進んでいきます」まずはそこから。「命は何個あるのかしら?」「えっと、このチャージがなくなったら終わりです」1983年のクリスマス、サンタさんからもらったファミコンで一緒に遊んだね。ドンキーコングJrの命は3個だったね。「なんか大きいのが出てきた!」「これはボスキャラです」「クッパみたいな?」「そうです。上の方を狙ってパンチして下さい」こうしてお兄さんの助けのもと、何とかクリアすることができました。その時の写真がこちらです。ちょっとちょっとおばさん、ケリーバッグ盗まれますよー。姉のKing Gnu熱は、まだしばらく続きそうです。

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西山繭子さんのINFORMATION

Writer

西山繭子

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website