仏の顔も三度まで│西山繭子の「女子力って何ですか?」

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西山繭子の「女子力って何ですか?」

#169

仏の顔も三度まで

2021-04-26 16:25:00

 三度目の緊急事態宣言となりました。感染者数の増加、医療の逼迫度合いを考えると仕方がないのかもしれませんが、この一年間に政府がしてきた対策を考えると、参議院と衆議院の違いがよくわかっていない私でさえ、不信感を抱きます。もしかして彼らは日本を滅亡させようとしているのではないかとさえ思います。当然のごとく飲食店は真っ先にやり玉にあげられましたが、今回の休業要請の対象には首を傾げるばかり。アイタタタ。昨年の緊急事態宣言によるダメージで、通っていた鍼灸院(第112回『私の神様』参照)が閉院になってしまい、それ以来、首を傾げるのも一苦労です。これもきちんとした補償なき休業要請のせい。それは今回も同様で、百貨店なんて1日20万円というのだから驚きです。しかも百貨店で最も混雑する食品売り場は開けるというのだから。確かに生活必需品を買う人も一定数いるのだと思いますが、客のほとんどは余裕のある年金生活をしている高齢者です。私も30年後はそちら側に行きたいと願っていますが、年金見込額を見ると絶望しかありません。そして休業要請の対象は美術館、劇場、はたまた映画館まで。それらの場所で、大声でお喋りをして飛沫を飛ばしている人なんて見たことないですけどね。まったくどういう判断基準なのか、さっぱりわかりません。これによって予約していた『鳥獣戯画展』も中止になってしまいました。密を避けるために日時指定の予約制度がとられていたにも関わらず。感染をおさえるためにしているみんなの努力を、エラい人たちは無下に踏みにじります。今は国民の命よりもオリンピック!お金がたくさん動くオリンピック!バッハ様ラブ!みたいなね。いやはや、こんなこと続きで、この国に税金を納めていることがまったくもってアホらしくなってきます。そして何よりも腹がたつのは映画館の休業です。「もっとツラい思いをしている人がいるんだから、映画館ごどきでぶうぶう言うな!」という声が聞こえてきそうですが、全然言います。ぶうぶう言いまくります。テレワークなんてどこ吹く風、朝は満員電車で会社に行き、人の出入りが多い職場で働いて、20時を過ぎても仕事は終わらなくて、家に帰ったら原稿を書いて、オファーがあれば撮影に行って(これは幸せ)、でも撮影で休んだ分の振替出勤をして、よって自分の時間はますます失われ、物理的にも精神的にも小説を書く余裕がなくて、気持ちは焦る一方で、気づけばメニエール病を発症していて、めまいでふらふらだけどそれでも生活があるから会社は休めなくて、という悪いループに陥っている今、私の唯一の楽しみは映画館なのです。平日の昼間に行くがらがらの映画館なのです。そこがなくなると、もうどうして良いのやら。休業前に何とか観られたのは『ミナリ』『ノマドランド』『パームスプリングス』『SNS少女たちの10日間』『戦場のメリークリスマス』『21ブリッジ』あたりでしょうか。『戦場のメリークリスマス』などは、これを逃したら映画館で観られないかも!と緊急事態宣言が始まる前夜に慌てて駆け込みで行ったのですが、同じことを考える人は多く、ヒューマントラストシネマ有楽町は超満員でした。これも無意味な休業要請の弊害ですね。すごく楽しみにしていたロバート・デ・ニーロの『グランパウォーズ おじいちゃんと僕の宣戦布告』は上映予定だったTOHOが休業になったために観ることができません。作品の規模からして公開期間は短めに設定されていたと思うので、映画館が再開されてからも無事に上映されるかどうか。また、今はアカデミー作品賞をとった『ノマドランド』を観たいという人もたくさんいることでしょう。上映している近隣県の映画館に人が殺到しそうですね。今回の緊急事態宣言は、一応17日間とされていますが、多くの人が自粛することに嫌気がさしていることを考えたら、あまり効果は期待できないように思います。それでもオリンピックのために何かをしている体をとらなくてはいけない。ああ、ますますげんなり。こういう時こそ、文化は心の救いになるのに。美術館、劇場、映画館が一刻も早く再開されることを願ってやみません。写真はその昔書いていた映画日記です。貼り付けてある半券に『11.2.16』とありますが、2011年ではなく、平成11年のものです。呑気にこれを書いていた21歳の私は、今のこの世界を想像もしていなかったことでしょう。

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2021.4.26 配信

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西山繭子さんのINFORMATION

Writer

西山繭子

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website