パパ活│西山繭子の「女子力って何ですか?」

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西山繭子の「女子力って何ですか?」

#181

パパ活

2021-10-25 14:18:00

 本日10月25日より飲食店の時短要請が解除となり、通常営業が可能となりました。美味しいものが大好きな私にとっても朗報なのに、手放しで喜べないのは、やはりこのコロナ禍で生活リズムが完全に変わったことにあるのだと思います。今日も原稿を書くために3時に起床しました。私は週4日、会社勤務をしているので執筆にあてられる時間がここしかないんですよね。もちろん仕事が終わってから書くという選択肢もありますが、昼休憩さえろくすっぽとれない労働環境で10時間近く働いた後に書く文章というのは、もう労働搾取に対する恨みつらみのオンパレードで、そこで蟹工船のような名作が書ければ良いのでしょうが、私の場合、ただの愚痴で終わってしまいそうなので、やはりここは1日の始まりである静寂に包まれた『超早朝』がベストなのであります。今月は有難いことにドラマと映画の撮影もあるので、なかなかもって忙しい。勤勉すぎて二宮金次郎の生まれ変わりなのではないかとさえ思います。いやはや生活をしていくということは、いつの時代でも大変なことなのであります。そんな風に生きている私なので、インスタグラムで若い女の子が高級ブランドに囲まれ、日夜高級店で食事をしているというのがまったくもって意味不明なのですよ。その疑問を美容院でカラー(まだ白髪染めではない!)をしてくれた20代女子にぶつけたところ「自分で稼いでいる子もいると思いますけど、だいたいサポートしてくれる人がいるんじゃないですかね」とのこと。「サポートって?」「パパ活とか」「ああ、売春か」「いや、パパ活です」「だから売春でしょ?」「・・・しみているところありませんか?」「大丈夫」「では、少しこのままお待ち下さいね」頭にラップを巻かれたおばさん、しばし放置。その間にふむふむとパパ活について考えます。実はつい最近、緊急事態宣言が開けてから今年初の寿司屋に行ったのですが、そこで目撃してしまったのですよ。おじさんと女子大生という、まさにパパ活の真っ最中な瞬間を。しかもパパの方は、軽く知り合い。向こうはこちらに気づいていなかったので、私の耳はダンボと化し、舞浜の青い空を浮遊するかのごとく嬉々として会話に耳を傾けます。「ハワイ行きたいなー」「いいですね、ハワイ」「ハワイ、好き?」「好きです、ハワイ」「いいよね、ハワイ」「いいですよね、ハワイ」あまりの薄っぺらさにダンボも地面に叩きつけられます。まあ、でもそうなりますわな。その間も女子大生は出てくる料理やシャンパンを片っ端から写真におさめていきます。こういうのをインスタにあげるわけね。そして化粧室へと向かう彼女が手にしていたのはシャネルのマトラッセ。私は年に数回マトラッセを欲するマトラッセ熱にかかるのですが、このバッグ、今年の夏にさらに値上がりをしてなんと907,500円。もうここまでくるとお手上げです。そんなバッグをいとも簡単に手に入れてしまう女子大生、もう羨ましいったらありゃしない!その後も2人はハワイがNYやロスに変わっただけの会話を続けていました。そして店を出る際、私に気づいた彼は「あああああああ!いたのおおおお!久しぶりいいいいいだねえええええ!」と激しく動揺して去って行きました。すごいなあパパ活。でもね、ここだけの話、実は私も数週間前にパパ活をしたのばかりなのですよ。父親を歯医者に連れて行くという『パパのために活動する』というパパ活を。
 ここしばらく父が歯の治療で足踏みをしているなあというのを感じていたので、私が絶大なる信頼を寄せている歯医者の先生を紹介することにしたのですが、正直、最初は躊躇しました。何しろ父は一筋縄ではいきません。元気になったとはいえ、昨年大病をしてからはこれまで以上に頑固になったように思います。人間関係を築く上でお互いを尊重するということは非常に大切なことですが、それが治療をする医師と患者ともなれば言わずもがな。当初、それが今の父にできるだろうかという不安がありました。しかし初診に付き添ったところ、そんな心配はどこ吹く風。先生は父の話をしっかりと受け止めてくださり、父の方も今後の治療方針に「わかりました」と納得の様子でした。ああ良かった。しかし心配なことが一つ。それは二人がほとんどゴルフの話をしていたことです。私が「あの、そろそろ歯の話を」と割り込んでも、いつの間にか「あのコースは」とゴルフの話に戻ってしまう!父の診察に毎回付き添うわけにもいかないので、そこは歯科衛生士さんに頑張っていただくしかありません。帰り道、「良い歯医者さんを紹介してくれてありがとう」と言う父に「とんでもないです」と娘はにこりと微笑みながら考えます。私の奥歯の詰め物をすべてダイヤモンドにして、その治療費を父にツケることはできるだろうかと。女子大生ちゃん、これが本当のパパ活よ。

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2021.10.25 配信

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西山繭子さんのINFORMATION

Writer

西山繭子

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website