働けど働けど│西山繭子の「女子力って何ですか?」

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西山繭子の「女子力って何ですか?」

#197

働けど働けど

2022-06-24 15:39:00

 私はごくごく平凡な一人暮らしをしています。20畳の吹き抜けリビングでエアコンをつけっぱなしだとか、水槽ヒーターが必要な巨大アクアリウムが趣味だとか、そういったこともないので、毎月出ていく光熱費も平均的な額であります。その中でも4、5月は電気使用量が最も少ない月なのですが、先日、明細書を見たところ「むむ、高い」。思わず眉をひそめてしまいました。昨年と比較すると2割ほど高くなっています。ガス代も然り。ああ、こういう風にじわじわとやってくるのね。ニュースで連日報じられる相次ぐ値上げ。普段スーパーで一人分の食料を買っていると、さほど気づかないのですが、家計簿を昨年と比べてみると食費は随分とアップ。年齢を重ねて、より身体に良い美味しいものを口にしたいという変化を鑑みても、ちょっと上がりすぎじゃございませんこと、奥さん? まあ、私などはまだマシな方で、中3、小5、小3の男児とおじさん(旦那さん)がいる姉の家庭などは本当に大変そうです。ウクライナ情勢や燃料費高騰といった理由で今だけというなら辛抱しようとも思うのですが、一度値上げしたものって、だいたいしれーっと据え置きしますよね。高くなったらずっとそのまま。それなのに給料は上がらない。大手企業では夏のボーナスが13.8%増などと目にしましたが、そんなのは一握りの話で、国民の多くは来たる猛暑に戦々恐々であります。パパ活をしてもボーナスが290万円支給される国会議員の勝ちっぷりに地団駄を踏むばかりです。もう我々にどうやって生活しろと言うんですか、岸田さん!ファイナンシャルプランナーの方は情報番組で「支出の見える化が大切です」とおっしゃっていましたが、見えたところで入ってくるものがなければどうしようもない、というのが素直な感想です。トイレのタンクにビール瓶を入れるとか、いらなくなったVHSテープでカゴを編むとか、この令和の時代にそんな昭和な節約をしても焼け石に水。結局のところ収入を増やすしかないのです。2008年のリーマンショック直後、NYで暮らす友人が言いました。「これからの時代、1つの仕事でなんか生きていけない」フリーランスの映像クリエイターをしていた彼は、テレビ局でアルバイトをしていましたが、その当時、探偵事務所でも働き始めました。NYの物価の高さを考えれば、それでやっと人並みの暮しといったところでしょうか。いやはや、大都会で生きていくって大変です。ちなみに探偵業は、浮気調査の尾行で対象者に気づかれまくって、そっこーでクビになったそうです。それでも彼の言う通り、多くの人が「1つの仕事でなんか生きていけない」のが今の日本なのではないでしょうか。給料が上がらないのであれば、仕事を増やすほかないのです。
 今現在、私は3つの仕事をしています。女優、作家、会社員。生活は贅沢ができるほどではないけれど、毎月ほそぼそと貯金もできるし、日々ひもじい思いをすることはありません。しかし、これほどまでに値上がりの波が押し寄せている今、ここはもう1つ仕事を増やさなければ、私が常々危惧している「一寸先はホームレス」がいよいよ現実のものになってしまう。ということで、さくっと4つ目の仕事を始めることにしました。それは父の事務所の手伝いです。前々からふんわりと頼まれてはいたのですが、そこに踏み入ったら最後とお茶を濁し続けていました。考えを変えたのは、お金のことよりもゆくゆくの煩雑さを思ってが大きいです。父に「経理を少し見てもらいたい。あなたが一番信頼できるから」と言われた時、私の頭の中に「横流し、横領、高飛び」という言葉が浮かんでいたのは内緒ですが、ひとまずは事務所に通って仕事を覚える日々になります。7月のカレンダーからは休日が消えてしまったけれど、今は新しいことを始めることにワクワクしている気持ちの方が大きいです。ただ、一つだけ心配なことがあります。それは父の事務所が『近江屋洋菓子店』の目と鼻の先だということです。サバラン、アップルパイ、フルーツポンチ、何から何まで美味しいこのお店、このままいくと事務所で仕事をする毎に買ってしまう。ああ、せっかく稼いだ時給がケーキに消えてしまう。写真は早速購入したいちごバター。美味しくて幸せです。

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2022.6.25 配信

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西山繭子さんのINFORMATION

Writer

西山繭子

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website