とうとう私も│西山繭子の「女子力って何ですか?」

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西山繭子の「女子力って何ですか?」

#199

とうとう私も

2022-07-21 18:08:00

 2020年1月に日本国内で新型コロナウィルスの感染者が確認されてから2年半。東京都で新規感染者数が2万人を超えた第6波の最中も、私は毎日満員電車に揺られて出社しては対面で仕事をしてきました。そして行動制限がなくなってからは、感染対策をしながらも月に何度かは友人と食事を楽しむようにもなりました。そんな風に過ごすうち、私はこう思うようになりました。「きっとコロナにならない人なのだな、私は」と。ああ、私もコロナになりたい。堂々と長く仕事を休みたい。万年人出不足の職場で心身ともに疲弊するうちに、そんなことすら考えようになりました。悪魔はそんな私の声を聞いていたのでしょう。「そうか。その願い、叶えてやろう。お前もコロナになるがいい!」ゴロゴロゴロピカーン(轟く雷鳴)「キャーーーー!」バタッ、プスッ(倒れてからのおなら)その日はいつもより眠りが浅く、朝のウォーキングもお休みすることにしました。あれ?何だか身体がダルい。そう異変に気づいてからは、もうあっという間です。激しい倦怠感、全身の関節痛、凄まじい喉の痛み。症状は風邪と同じようでありますが、もうその激しさたるや、診断を受けずとも普通の風邪ではないと。間違いなくコロナだと。かかりつけの病院に電話をしたところ、診てくださるとのことで、ふらふらと亡霊のように歩いて向かいました。電話で指示された通り、こっそり裏口から入ります。何だかVIPな気分。いや違う、隔離だ、隔離。地下にある処置室でぽつんと待っていると「西山さん、こんにちは。具合どうですか?」といつもと変わらぬ様子の先生が現れました。先生だって感染したくないだろうに、本当に医療従事者の方々には頭が下がります。まるで神様のように見える先生は、手際よく検査と診察を進めていきます。「何か持病とかありましたっけ?」という問いに「私、先天性心室中隔欠損症で…」と不安いっぱいに答えると、先生はわりかし食い気味に「あ、それは大丈夫です」と。「…でも、コロナで心臓に負担とか」「いや、大丈夫です」「ああ…そうですか」本音を言えば、もう少しねばって欲しかったところですが、まあ心配ないのであればそれに越したことはないですね。検査結果が出るのは翌日でしたが、十中八九コロナであろうというのが先生の見解でした。そしてこの日から、私は長い長い自宅療養期間へと突入したのであります。
 まずコロナになって思ったことは、コロナになりたいと願っていた自分をぶっ飛ばしたいということです。知り合いの20代男子からコロナ体験談を聞いた時、彼は「鼻水がすごかったっス」と軽い感じで答えていたし、ニュースで報じられる芸能人の感染も軽症や無症状が多かったので、けっこう甘く見ていたんですよね。しかし実際は、まったく違いました。まさにこの世の地獄。高熱にうなされ、息苦しくて眠ることもできない。トイレに行くにも、まるで象をおんぶしているかのような倦怠感。そして唾さえ飲み込めない喉の激痛。そのうち心臓に針を刺されたような痛みにまで襲われ、これはこのまま死んでしまうのではとさえ思いました。東京で新規感染者数が3万人を突破したこの第7波、もういつ誰が感染してもおかしくない状況ではありますが、私の場合、今回の感染は免疫力が低下していたことが一番の原因だと思っています。少し前のコラムに、父の事務所の仕事を手伝うことになった旨を書きましたが、実際に始めてみると、やはり大変なことが多く、心身ともに過度のストレスがかかりました。そこに加えて、レジャーのお誘い。もともとお誘いを断ることが極度に苦手というこの性格、「ごはん行きませんか?」と言われれば、本当は家でゆっくりしたいのに「ぜひ」と答えてしまう八方美人な私。予定で埋まっていくカレンダーを眺めるだけで、溜息が出てしまうという状態でした。自分で自分の首をしめて勝手に苦しんで、コロナになって。いったい私は何をやっているんだろう。この長い療養期間は、自分のことを改めて考える良い機会になりました。ゆっくりする時間って大切なのだなあ。そして行きついた答え、それは「これからは自分のことだけを考える」ということ。母と姉にそう宣言したところ「今までもずっとそうだったと思いますけど…」と難色を示していましたが、アフターコロナのニューマユコはそんなこと気にしません。私は、私の私による私のための人生、を生きるのです。自分を苦しめないためにも、しばらくは『予定を入れるのは週1回まで』と決めました。ということで8月はもう埋まり。例え「ライアン・ゴスリングと東京サマーランドに行くんだけど一緒に行く?」と誘われてもニューマユコは行きません!そもそもライアン、タトゥーあるから行けないし!写真は自宅療養中に『うちサポ東京』が送ってくれた食糧に入っていた羊羹です。これは百合子が選んでいるのでしょうか。「西山繭子さん、44歳、独身…。羊羹入れてさしあげて」さんきゅう、百合子。

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2022.7.25 配信

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西山繭子さんのINFORMATION

Writer

西山繭子

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website