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いつも心に平穏を
2022-10-24 12:27:00
とある天気の良い午後、クリーニング店から大量の夏服を抱えて家に戻ると、共同玄関の入り口横に高校生カップルがしゃがみこんでお喋りに興じていました。段差になっているそこは、はたから見ると座りやすいのか、これまでも人がいる光景を何度か目にしたことがありました。Uberの配達員だったり、近くの工事現場で働く人だったり。ちょっと腰をおろして休憩。外とはいえそこはマンションの敷地内なので、本来であればいけないことなのですが、まあすぐに去って行くからとあまり気に留めていませんでした。その日の私もそんな感じでした。近所にある高校の名前が入ったジャージを着たその高校生カップルは、男の子が女の子の肩に腕を回し、顔を寄せ合いながらスマホを眺めています。心のなかでは「公園に行けよ」「頭が悪そう」「1か月後には別れてる」と色んなことを思いましたが、そんなことを考えるのは天気の良い休日にひとりぼっちでいる自分のひがみのような気もして何だかモヤモヤ。これも、せまりくる更年期障害の一つなのかしら。それにしても今日も休日だというのに、朝から父の事務所の案件で電話をしたりメールをしたり、調べごとをしたりと心休まる暇はなし。しかし年金納付が5年延長になりそうなこの世の中で、何も頼るすべもない独り身の私はやはり働くしかないのです。ああ、ツラい!前回のコラムにも書きましたが、疲れている時は寝るに限るということで、この日も19時にはベッドに入りました。そして翌朝、たっぷりの睡眠で身も心も絶好調になった私。まずは前日に録画した『きょうの料理』を見ながらストレッチと筋トレです。私のなかでの結婚したい男No1であるNHK原大策アナウンサーがみせる、ほのぼのとした雰囲気を出しながらもぬかりない進行という、デキる男っぷりに朝から気分が上がります。私も頑張るぞと、スクワットに足パカ運動にプランクを数セット。そして温まった身体で次はウォーキングへ。夏は終わったけれど、まだまだTUBE。名曲『ガラスのメモリーズ』からスタートして、いざ出発!と外へと踏み出しました。しかし次の瞬間、目の前にある地獄の光景に、私の心はガラスのごとく打ち砕かれたのであります。そこには高校生カップルが置き去りにしたジュースとお菓子のゴミ、ゴミ、ゴミ。正直に言います。それを見た瞬間、私はこう思いました。「ぶっ殺す」と。約40分間のウォーキングをしている間、どうすれば良いのかをひたすら考えました。あいつらはバカだから、また同じことを繰り返すはず。今度見たら注意する?いや、あいつらはバカだから、刺されるかもしれない。学校に通報する?いや、あいつらはバカだから、報復に来るかもしれない。ウォーキングから戻った私は、掃除グッズを手にもう一度外へ。バカがうつると困るので、きちんとビニール手袋をして片づけます。ジュースを持ち上げると見事なまでの飲み残し。全部飲めよバカ!しかもスタバのチルドカップ!私は高くて買えないやつ!怒りと悲しみに震えながら、家で中身をシンクに捨ててからゴミに出しました。その日がゴミの収集日であったことが唯一の救い。それでも思いましたよ。人が一番思ってはいけないことを。「なんで私ばっかり」って。
朝ごはんを食べて、一息ついた私はパソコンを立ち上げました。そしてマンションの管理会社にテケテケとメールを打ちます。感情的にならず冷静に、そして丁寧に。メールには掃除前に撮った現場の証拠写真も添付しました。先方からはすぐに「大家さんと相談して対策を考えます」と返信をいただきました。数日後、家に帰宅すると事件現場には防鳥針がしきつめられていました。これは座れないわと思わず笑いながらも、迅速な対応をしてくださった管理会社と大家さんに感謝です。ちょうど契約更新の時期と重なっていたので、お礼のメールではその旨も伝えました。築25年のマンションはごくごく普通の1Kで決して広くはないけれど、私からすると何の不便もありません。むしろずっと据え置きの家賃を考えると、家賃高騰しまくりの都心部で同じ条件の家を探すのはほぼ不可能。もう少し良いところに住めなくもないけれど、一度上げた生活水準を下げることって、なかなか大変なのですよね。浮き沈みの激しい芸能界で、そんな知人の姿を幾度となく見てきた私としてはどうしても堅実になってしまいます。つまらない女だなと思いながらも、大切なのは心の平穏。せまい我が家でありますが、疲れて家に帰ると甥っ子3号が作った「コルク君」が出迎えてくれます。このコルク君、シャンパンコルクが一番作りやすいそうで、姉は「ママ、もっとシャンパン飲んで」とホストクラブのようなことを言われているとのこと。みんなそれぞれ大変です。
2022.10.24 配信
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website