https: ハンドルさばき│西山繭子の「女子力って何ですか?」

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西山繭子の「女子力って何ですか?」

#217

ハンドルさばき

2023-04-23 16:54:00

 今朝5時頃、いつものようにウォーキングをしていたところ電線の上を猫が歩いていました。初めて見る光景にびっくり。猫は電柱に到達すると、するりと変圧器の陰へ。感電したらどうしようと駆け寄って、電柱を見上げたのですが、複雑に絡み合った配電線が邪魔をしてその姿が確認できません。猫ちゃーん、どこに行っちゃったの?と、しばらく電柱の下をぐるぐる回りながら探したのですが、不思議なことに猫は私の前から忽然と姿を消したのでした。次の瞬間、頭の中に「ウソじゃないもん!メイ、見たもん!」という声が響きます。すると今度は「メイのバカッ!もう知らない!」とサツキが現れ、「カンタぁ~!」とおばあちゃんまで出てきて朝から一人ジブリ祭り。ナウシカもラピュタも観ていない邪道ジブリファンの私ですが、トトロは大好き。ああ、朝から幸せ。あとから調べたところ、電線の上を歩いていたのはハクビシンの可能性が高いとのことでしたが、私が見たのは間違いなく猫バスでした。その猫バス、バスではありますが運転手はいません。運転しないで良いなんて、羨ましいかぎり。何故そんなことを思ったかといえば、先日、ペーパードライバー講習なるものを受けたからです。
 免許を取得してから25年ほど。最初の3年間こそ、ほぼ毎日運転していたものの、車を手放してからはあれよあれよと運転する機会が減り、1年に数回が数年に1回となり、気がつけば最後に運転をしたのはもう2019年のこと。その時ですら「ブレーキって左ですよね?」と真顔で訊いて、レンタカー屋のお姉さんを震え上がらせたのですから、2023年の今なんて、すいすいと運転をしていた自分は幻ではないかと思うほどです。そこで今回はプロの力を借りようということで、出張ペーパードライバー講習に申し込みました。当日は、事前に予約をしておいたカーシェアの駐車場で待ち合わせです。カーシェアを借りるのも今回が初めてだったのですが、とても手軽で良いですね。予約時間の少し前に行くと、この日の先生であるⅯさんがすでに待っていてくれました。「本日はどうぞよろしくお願いいたします」礼儀正しい青年であります。私が通っていた時代、自動車教習所の教官というのは怖くて横柄というのが当たり前でした。それでも生徒たちは判子を押してもらうために、黙って耐えていたのです。映画『免許がない!』でも主演の舘ひろしさんが必死の形相で「判子押してくれよ!」と言っていましたね。今回の講習では、Ⅿさんが鬼教官ではなさそうなことに、ひとまず安心。助手席から操作ができる補助ブレーキを取り付けてもらい、カーナビで目的地を設定してからいざ出発です。まず向かったのは、とあるお店の駐車場。驚いたことに、ここはペーパードライバー講習の聖地と化しているようで、私と同じような人が他にもちらほら。私と同じような、というのは、普通は2,3回ハンドルをきれば大丈夫なところ、7万回ぐらいハンドルをきったあげく、同じ軌道を繰り返して「お前、駐車する気あるんか?」と突っ込まれそうな運転をするということですね。そのうちの一台はピッカピカに輝いたレクサス。どうやらマイカーで練習中のマダムのようで、旦那さん寛大だなあと思いました。免許をとってすぐ、どれだけぶつけても良いように4万円の中古ホンダアコードに乗っていた私からは考えられない。何度か繰り返しているうちに感覚も取り戻し、すんなりと駐車できるようになりました。「普通の駐車は問題なさそうですが、縦列駐車とかは大丈夫そうですかね?」とMさんに訊かれ「縦列駐車は、もう一生しないんで大丈夫です」ときっぱり。そうそう、無理をしないのが一番です。頻繁に運転していた時でさえ、都内の狭いコインパーキングに駐車したい時は、通りすがりのおじさまに「すみません、私の車を停めて欲しいんですけど」と上目遣いで頼んでいました。自分の車も人様の車も傷つけず、まさにウィンウィン。そして何よりも、20歳の女の子に頼りにされたおじさまたちのはりきりっぷりたるや、むしろこちらが良いことをしたなと思うほどでした。中年女子となった今は、さすがにそういうわけにはいかないので、もう狭いコインパーキングには近づきません。行楽季節の到来、皆様も無理のない運転で楽しい時間をお過ごし下さい。写真は、ここ最近の私の相棒。これがなくてはどこにも走り出せません。

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2023.4.24 配信

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西山繭子さんのINFORMATION

Writer

西山繭子

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website