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夢のフライト
2023-10-21 15:04:00
10月も下旬に入っているというのに、こんなに暑くて良いのでしょうか。寒いのが苦手な私としてはずっとこのままなら問題ないのですが、結局寒くなるんでしょ?なら、順当に寒くなってよ!と思うのです。何しろ身体がついていきません。ここ最近は、そこに心労も重なって、なかなか風邪が治りません。若い頃はこんなことなかったのになあ。まさに体力の低下。それはスーツケースを持った時にも感じました。荷造りが面倒になり、ほぼすっからかんで総重量10kgもないスーツケース。それを持って階段を昇り降りするのがとても難儀で、3年という時の流れをひしひしと感じたのであります。そう、3年です。コロナ禍で行くことができなった3年ぶりの海外旅行です。すでに慌ただしい日常生活に戻り1週間が経って、まるで幻だったかのように感じますが、いやはや楽しい旅でありました。
前回のコラム(第228回『緊張しています』)で旅の概要は伝えましたが、往路は姉が乗務する便でロンドンに向かいました。旅のはじまりにして、すでにハイライトです。羽田空港で「このサンドイッチ、かたい。食べなきゃ良かった。むかつく」「繭ちゃん、そういうこと言わないの」と朝食を終えた母と二人で「お姉ちゃん、そろそろ飛行機に乗り込む頃かなあ?」と搭乗時間の40分前にゲートへ向かいました。宝塚の入り待ちのごとく胸をときめかせていたのですが、CAさんはすでに乗り込んだあとと知り、ファン失格と肩を落とした私と母です。そしていざ搭乗!私たちは下層階級のグループ4、1番最後の案内です。ドキドキしながら通路を進んでいくと、い、いたー!「おはようございます」そこには満面の笑みを浮かべるおっかさんCAアッコちゃん!席に着きながら二人で「お姉ちゃん、すごく可愛いね」「うん、1番可愛いね」と親バカ妹バカ甚だしい私たち。それでも大好きな姉のフライトに母と一緒に乗れたことが本当に嬉しくて、少し泣きそうになりました。機内アナウンスをしている姉の声はだいぶよそゆきで、普段の「上カルビ、もう1人前ください!」と言う時とは別人でした。笑顔で接客する姉、お客様の荷物をあげる姉、外国人客に流暢な英語で話す姉。ああ、すごいなあ。男の子3人を育てながら、本当に頑張っているなあ。そう思っていると、姉がつかつかつかと私のところに来てノースマイルで「ねえ、毛布余ってる?」と言いました。「あ、うん」と私が隣の空席の毛布を渡すと、それをむんずと掴んで前方の席へと消えていきました。なんということでしょう!お客様にタメ語!これはクレーム案件ですな!そして飛行機はヒースロー空港に向けて順調なフライトを…して欲しかったのですが、しばらくすると気流が悪いところに入ったようで、もう揺れる揺れる!実は私、離陸前は大好きな2人が一緒ならば、例え不慮の事故があっても悔いはないと思っていたのですが、この時、即座に頭に浮かんだ言葉は「絶対に死にたくない」でした。人間の感情とはわからないものですね。これまでの人生において1番恐怖を感じたフライトは、かれこれ20年前のこと。レオン発カンクン行のアエロメヒコ航空でした。小さな国内線がジェットコースターのように乱気流にあおられ、機内にはスペイン語の悲鳴が飛び交っていました。少し前まで、私が読んでいた文庫本を見て「文字が縦に書いてあるの!?」とたまげていた隣のメキシコ人のおばさんも恐怖に白目をむいています。恐ろしさのあまり汗びっしょりになった私は、何とか気分をまぎらわそうとイヤフォンを耳に入れました。そして、その時に選んだのはリッキー・マーティンの『Livin La Vida Loca』。すると、あら不思議。爆音にノリノリで身体をゆだねることで飛行機の揺れをあまり感じなくなったのです。これ以来、飛行機が揺れたらノリノリ。これが鉄則になりました。ということで、今回もヘッドフォンを装着してミュージックスタート。ロンドンに向かっていたので、エド・シーランの『Shape of You』を選びました。よし、何とか乗り切れそう。ノリノリ。でも怖い。ノリノリ。もう下ろして。ノリノリ。ちびりそう。必死の攻防戦の末、飛行機は再び安定飛行に。この恐怖をあとから母と姉に伝えたところ、現役CAの姉も元CAの母も「まったく問題なし」ということで、CA役しかやったことのない私は、仲間外れのような気持ちになりました。って私、ロンドンとパリの旅の話を書こうとしたのに、まだ出発して4時間ほどの出来事でコラム1回分を使ってしまいましたよ!残りのフライトがまだ10時間ほどありますが、次回はぜひともヒースロー空港に到着したいです。今回は、せめて写真だけでも、ということで『アビー・ロードって普通に渡ると、まあただの横断歩道だよね』な1枚です。
2023.10.23 配信
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website