やっとロンドン
2023-11-25 18:25:00
そしてヒースロー空港到着。あまりにも雑なはじまりですが、こうでもしないと話のまくらが広がりすぎて「また文字数が！」となってしまうので、ここは少し強引に。空港から市内まではタクシーで移動したのですが、この時のレートは１￡189円な上に、夕方の渋滞に巻き込まれ、チップをいれたら総額２万円ほどになりました。でもね、今回の旅はもうお金のことは考えないと決めたのです。姉が乗務するフライトで始まったスペシャルな旅なのですから。宿泊先はユーロスターでの移動を考えて、セント・パンクラス駅のすぐ近くにある『ザ・カリフォルニア』。ロンドンのど真ん中で何故その名前をつけたのかという疑問はさておき、従業員も皆さん親切で部屋も快適。良いホテルに出逢いました。その日は荷物を置いて、セント・パンクラス駅構内にある少々高級なレストランへ。ロンドンに来て一発目に食べるものといえば、そりゃあなたフィッシュ＆チップスでしょ。しかし、まわりを見渡すと紳士淑女がワイングラスを片手に談笑中。メニューを眺めてもその文字が見つからない。「フィッシュ＆チップス？そんな労働者の食べ物は当店にございません」そんな風に鼻で笑われたらどうしよう。ドキドキしながらウェイターさんに尋ねました。「ドゥユハブ、フィッシュアンド…ゴニョゴニョ？」ビビって完全に尻すぼみ。「フィッシュ、ワット？」「…チップス」「チップス？イエス！オフコース！」あるじゃないか！さすがイギリス！フーリガンの国！高級店だけあって、とても美味しいフィッシュ＆チップスでありました。ただ、高級すぎてガーゼに包まれた見慣れぬものがお皿にのっており、「バターかな？」と開いてみると、それはレモンでした。ああ、そのまま絞るのね。その夜は、小雨が降るロンドンらしい天気。通りを行き交う二階建てバスを眺めながら「ロンドンって感じだね」と言う母の笑顔に、一緒に来ることができて良かったなと心から思いました。そして翌日は姉と合流して市内観光へ。高齢の母（スーパー元気だけど）のことを考えて、貸切タクシーの観光ツアーを事前に申し込んでおきました。ドライバーのジュリーは、ロンドンの歴史に詳しいおっさん。女王がどーの、ドラゴンがどーのと２時間喋りっぱなしです。私などは途中から英語を聞くことに疲れてしまい、うんともすんとも反応しなくなってしまったのですが、ホスピタリティが高い姉は最後まできちんと言葉を交わしていて偉いなと思いました。母に「ちょっと！繭ちゃんもちゃんとお話し聞きなさいよ」「えー、いいよ。お姉ちゃんが聞いてるじゃん」45歳になっても家族が揃えば、永遠の末っ子であります。そして貸切ツアーを終えて、ランチはロンドン最古のレストラン『Rules』へ。クラシカルな店内は古き良き英国といった感じで、思わずこちらも『ダウントン・アビー』ばりのクイーンズ・イングリッシュで受け答え。「シャンパンボトルで！」「ロストビーフ山盛りで！」「赤ワインボトルで！」しかし、こんな素敵なところでランチをしているというのに、母と姉はずっと、近所にできたという業務用スーパーの話をしていました。何なのさ。このあとはハロッズに行き、ビッグベンに行き、長蛇の列のロンドンアイを諦め、パディントン駅で姉と別れました。家族3人での海外なんて約30年ぶりのこと。なんて幸せなんでしょう。だからこそ姉の背中を見送るのが少し切ない。日本に帰ればいつでも会えるのに、海外でバイバイするのってどうしてこんなに寂しいのでしょう。次の日は朝からウェストミンスター寺院を訪れました。日本のおばさんという生き物は、皇室が大好きです。そして、だいたい英国王室も大好きです。母と二人、感動しながら歴史的建造物を眺めておりました。そしてお次はバラ・マーケットへ。私の母は、とにかく食べることが好き。「これは何かしら？」「あれは何かしら？」とすこぶる楽しそうな母。その中で私たちが選んだのはパエリアでした。やっぱり米が食べたい！はふはふ、もぐもぐ。美味しいねえ。生牡蠣も食べたかったのですが、旅先ではリスク回避も大切です。このあと、母と私は『Rules』で食べて気になっていた野菜を探しに市場やスーパーを回りました。数軒目でやっと見つけたそれはSamphireという日本では馴染みのない野菜。これだけグローバルな時代になっても、まだまだ知らないものがあるって本当にワクワクします。そして、この夜は英国ロイヤルバレエの『ドン・キホーテ』を観にコベント・ガーデンに…って、また文字数が！はうっ！続きはまた今度、といった感じでしょうか。
最後になりましたが、11月24日、私の父、伊集院静が永眠いたしました。たくさんのお悔やみの言葉をいただきましたこと、この場を借りてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。娘が書いたものをわざわざ読むような父ではありませんでしたが「あなたのコラム、編集者が面白いと言っていたよ」と私に伝える時の顔は、いつも嬉しそうでした。今、とても寂しいです。とても不安です。でもね、頑張るよ。負けないよ。守ってみせるよ。父の娘ですから。写真は、父親の前でも気にせず大いに酔っ払う図太い娘です。
2023.11.27 配信
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website
