男前│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#106

男前

2018-09-10 12:32:00

 先月末、3回目の出場となるバレエのコンクールがありました。(第57回「ナタリー!」参照)バレエのコンクールというと、世界で最も有名なローザンヌをはじめ、若いバレリーナたちが未来への扉を開くためのものという位置づけであります。しかし、私が出場するこのコンクールは別名『お金を払えば誰でも出られるコンクール』なので、大人になってから始めたバレエ歴6年の私でも出場可能なのであります。いや、私でもと言いましたが私などはまだ良い方で、パンチのきいた先輩方が嬉々としてスポットライトの下で踊っています。基本的には一人でバリエーションを踊る一般的なスタイルなのですが、全体の舞台リハーサルでは出場者が一斉に舞台に立ちます。その光景たるや、毎年見に来てくれる母いわく「魑魅魍魎の世界」だそうです。舞台袖から、わらわらと現れる無数の妖怪たち。ただ、誰に何を言われようと妖怪たちはみんなバレエを心から楽しんでいるのです。決してみんなを怖がらせようとしているわけではないのです。何だか『泣いた赤鬼』みたいですね。かく言う私もそうです。だって今さらプロになれるわけでもないし、何でこんなに頑張ってるんだろうって、やっぱりバレエが好きだからなんですよね。しかし今年の練習は辛かった。昨年までの7月開催から8月開催に変わったことで暑い時期の練習が長くなり、さらには週5で働く社会人生活が加わったこともあり、この夏はずっと疲れていました。朝8時に出社して19時まで働いて、それからスタジオで3時間汗だくで練習というのは40歳の身体にはこたえました。もちろんそれだけ練習しても本番で完璧に踊れることはなく、審査員の方からいただいたアドバイスシートにはダメ出しの嵐。コンクールに出るのは、もう今年で最後にしようかなとも思いますが、一度くらいは完璧に踊りたいという欲望も捨てられず。西山繭子のバレエ熱はもう少し続きそうです。

 しかし、その熱とは別にコンクールが終わったら、ずっとしようと思っていたことがありました。それは、髪の毛を切ること。バレエではシニヨンを結うため、この猛暑を長い髪の毛で耐えていました。やっと切れるぜえ!ってことで、まずは事務所に確認。一応、女優なので髪型には制限があります。ここ最近は母親役が多いので、金髪やドレッドにはなれません。今、多くのアラフォーがショートカットのお手本とするのは吉瀬美智子らしいですが、私が「こんな感じにしたい」と同じ事務所のみっちゃんの写真を事務所に送るのもなあと思い、アン・ハザウェイとジェニファー・ローレンスの写真を送りました。すると「よくわからないから日本人にして」という返事が瞬時に返ってきたので、画像検索で拾ったショートカットの日本人女子の写真を送ることに。マネージャー、社長ともにOKをもらい、いざ美容院へGO!長年やってもらっている美容師さんに「今日切って、来年のバレエのコンクールのために頑張って伸ばすんだ」と言うと「じゃあ、切らなくても良くない?」とごもっともな意見。しかし「やだ、やだ!絶対に切るんだ!」ということで、ザクザク、チョキチョキ、サササでバッサリ。わお、素晴らしきオノマトペ。日本人に生まれて良かったなと思う瞬間です。これほど短くするのは高校生以来。姉に「久々に短くしたよ」と自撮りを送ると「松居一代かと思った」という返事が返ってきました。無視して次は母に送ると「あら、可愛い!」との返信。やっぱり私のことを一番わかってくれるのはお母さんだなあ。「ありがとう。でもお姉ちゃんに松居一代って言われたよ」「お姉ちゃん、ひどいわねー。でも、なんかわかる」もう、みんな嫌い。うーん、でも確かに切りすぎたかも。そして翌日、撮影のためにスタジオに行くとやはり社長もマネージャーも「切りすぎだろ」と苦笑い。しかも、この日のヘアメイクさんは10代の頃からお世話になっている旧知の仲なので、もう言いたい放題。「ちょっとカールを入れると瀬川瑛子になるね」「あ、こうやってワックスでシャープにすると楠田枝里子にもなるね」「タイトにすると十勝花子もいける」その昔、母親が「剛力彩芽みたいにしてくる」と美容院に行って橋田壽賀子さんになって戻ってきたことを思い出します。私がふてくされていると同じスタジオに広末涼子ちゃんがやって来ました。涼ちゃんは私の髪の毛を見て「わー!涼しそう!」と褒めてんだかどうだかよくわからない言葉をかけてくれました。まあ切ってしまったものは、どうしようもない。しばらくは男前を全面に出していきたいと思います。女子力はしばし封印です。

image2

最近のコラム

西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website