女優です│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#118

女優です

2019-03-11 12:04:00

 人生には奇跡のような瞬間があります。生き別れた兄弟に偶然出会ったり、はたまた運命の恋人に旅先で出会ったり。つい最近、私にも奇跡の瞬間が訪れました。事務所で打合せをするために乃木坂駅で降りた時のことです。乃木坂駅は綾瀬方面の電車が発車する際に乃木坂46『君の名は希望』のサビ部分が流れるのですが、ちょうどその時に私が耳にしていたイヤフォンからは(AirPodsじゃないよ。『みんながつけてるやつ』参照)Aviciiの『Waiting for love』が流れたのです。この2つが異常なまでのコラボを響かせて「うわー!すごーい!」と大興奮。しかしそれがまったく人に伝わらなくて、今もこれを読んでいる人にはまったく伝わってないだろうなと思うのですが、私は奇跡に胸が震えたのです。自分の奇跡があまりにも小規模でそれに対しても震える思いですが、天国のAviciiにお礼を言いたいです。タック!
 打合せに行ったのはスチールの作品撮りの件でありまして、それはまた皆様にお知らせできるようになりましたら告知させていただきますが、担当マネージャーが新しくなったこともあり、ここ最近の西山は、やる気元気いわきモードでございます。ご覧になってくださった方もいると思いますが、先月はドラマ『スキャンダル専門弁護士QUEEN』で、ずいぶんと素敵な役をやらせていただきました。改めてお芝居って楽しいなあ、難しいなあ、うまくいかないことばかりだなあ、でも大好きだなあと思ったのですが、何よりも幸せに感じたのは素晴らしい役者のみなさま、そしてスタッフの方々とお仕事ができたことです。ほとんどのシーンで私は竹内結子さん、水川あさみさんとご一緒させていただきました。お二人とも初めての共演だったのですが、本当に素敵な方たち。お二人を眺めながら、女優さんって顔が小さいなあ、華奢だなあ、肌がきれいだなあと完全に素人のようになってしまいました。まあ美しくて芝居ができて、というのはもうわかりきっていることなのですが、何よりも感動したのはまわりへの気遣いなのです。巷では「女優はわがまま」とか「性格が悪い」と思われているようですが、20年以上この世界で仕事をしてきて、私は意地悪な女優さんに会ったことがありません。ライバル女優の衣装をびりびりに破いたり、パンプスの中に画びょうを入れたり、台本を捨てたりと、ドラマの撮影現場で、そんなドラマのようなことは起こりません。みんなが良い作品にしたいという一心で撮影に臨んでいるのです。誰かの足を引っ張ってやろうとか、自分だけが目立ちたいとか、人より楽をしようとか、そういったくだらないことが一切ありません。悪口や噂話といった生産性のない会話を耳にすることもありません。今回の撮影現場で素晴らしい役者さんとスタッフを目の当たりにして、私はすごい場所で闘っているのだなあと、自分を誇らしく思いました。
私が初めて出演したドラマは1998年10月クールに放送された『じんべえ』でありました。初めてのドラマがいきなり月9で、しかもレギュラーというのは随分と恵まれたスタートだったと思います。当時は、今の事務所の社長と会ったばかりの頃で「まだうちで面倒を見るかは決めていないんだけど、ドラマのオーディションがあるから行ってみる?」と言われ、これは何が何でも勝ちとらにゃならん!と鼻息荒くTMCスタジオに行ったことを憶えています。この時にオーディションに受かっていなかったら、今頃私は路頭に迷って、道端で詩でも売っていたのではないでしょうか。「おなかすいたな。だってにんげんだもん」というどうしようもない詩を。何とかオーディションに受かり、初めて台本を手にした時の喜びは一生忘れないでしょう。しかしその喜びも束の間、撮影に入ってからは苦しい日々が続きました。それまで芝居の稽古場には通っていたのですが、いざ現場に出てみるとまったく勝手が違う。今まで自分がしてきた芝居の勉強は何だったのか。私は、何もできない自分に絶望しました。撮影中は監督、カメラマン、助監督にたくさん怒られました。そして帰り道にいっぱい泣きました。最初は新人の自分に対してみんなが意地悪をしているんだと思っていたのですが、違うのですよね。先ほども書いたように、みんなが良い作品を作りたい一心で臨んでいる現場だからこそ、できない私を叱咤激励してくれたのです。もちろん時に、厳しすぎる叱咤もありました。そんな時、ぐっと堪えて黙っていることしかできない20歳の私の隣で「君、今のその言い方は西山に失礼だよ」と言ってくれたのは、ドラマで主演を務められた田村正和さんでした。
私は撮影現場から離れていると自分が女優だという自覚を失いがちなのですが、これまでやってきた仕事のことを考えると、もっと胸をはっても良いのかもしれない。ただ、これまでの自分に満足はしていません。西山繭子21歳、さらに貪欲にやる気元気いわき!年齢詐称も何のその!

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website