ハッピーウェディング│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#201

ハッピーウェディング

2022-08-21 14:11:00

 5年ぶりに結婚式に参列しました。私の年齢からすると、あとは甥っ子の結婚式ぐらいであろうと思っていたのですが、同じ会社で働く10歳年下の友人S子が招待してくれました。20代、ご祝儀で瀕死になるほど結婚式に呼ばれ、30代ではよっぽどのことがなければ結婚式には参列しないというスタンスを貫き、40代の今、残りの人生で参列できる機会も僅かであろう結婚式を全力で楽しむという変遷をたどりました。新婦であるS子とは、一緒に働き始めて6年。仕事だけではなく、彼女とはたくさん遊びに行きました。(第104回『大根様』第128回『41歳の初体験』第130回『全力で夏!』参照)大人になってから、これほどまでに仲良くなれる人と出逢えたことは自分でも驚きです。そのS子の結婚式。これまでの結婚式では、心のせまい私は少なからずやっかみの気持ちを抱きながら、「おめでとう!」と笑顔で新郎のあらさがしをしていたのですが、S子の結婚は心から嬉しい。本当に良い子だから。S子が幸せになれなかったら、地球が爆発する。そんなレベルです。さて、そんな5年ぶりの結婚式。まずは何を着ていこう?と考えました。若い頃は華やかに華やかにと思うあまり、キャバ嬢みたいな出で立ちで結婚式に参列することもありました。しかし室町時代でいえば初老となる私、やはりここはシックなものをということで、クローゼットに大切にしまっていたバーニーズ・ニューヨークのワンピースを取り出しました。このワンピ、とにかく形が綺麗。大丈夫だろうとは思いつつ、念のため着てみます。すると、驚くことに下半身がパンパン!体重は変わっていないのに、加齢による体型の変化は恐ろしいものです。しかし検証したところ、裏地がきついだけということがわかったので母にお直しをしてもらいました。洋服はこれでOK。残すは今回S子に頼まれた大きなミッション、乾杯の挨拶を考えるのみ。まずはネットで『披露宴 乾杯 挨拶』と検索します。「ただいまご紹介にあずかりました××でございます」うん、よく聞く言葉だな。面白いことを言おうとは思わないけれど、つまらない話を延々とするのは避けたい。「スピーチとスカートは短い方がいい!」まさにその通り。原田マハさんの小説『本日は、お日柄も良く』を読み返し、スピーチの神髄を今一度頭に入れてから数日かけて考えました。普段、台詞を覚えているので暗記は問題なし。ストップウォッチを片手に2分以内におさまるよう、言葉をカットしたり抑揚をつけたりと練習をしました。何事においても準備は大切。
 当日はいつもより涼しく過ごしやすい陽気。会場である高輪プリンスホテルで、式に参列する他の同僚たちと合流します。いつも職場で「動きやすくて汚れてもいい格好」でしか会わないみんなが素敵な服に身をつつみキラキラとしていて、それだけで楽しい。ああ、やっぱり結婚式って良いなあ。貴賓館での式が始まるまで、ああでもないこうでもないとみんなでお喋り。「旦那さんってS子よりも年下だよね?いくつなんだっけ?」「26歳ですよ」「え!そんなに若いの!」息子でもおかしくない年齢ではないか。確かにチャペルに移動してからまわりを見渡すと、バージンロードをはさんだ向こう側に座る新郎友人たちの若さたるや、私から見ると大学生と見まごうばかり。晩婚化が進む一方とはいえ、やはり結婚って若い時の方が良いよなあと思うのです。人間は年齢を重ねれば重ねるほど、自分のルールやこだわりを壊すことが難しくなってきます。柔軟性を持って生きたいと心がけてはいるのですが、焼肉屋できのこのホイル焼きを頼む人を笑って見過ごせません。生まれ変わったら、その時は20歳で結婚しよう。そして焼肉屋できのこのホイル焼きを笑顔で食べよう。貴賓館のチャペルで賛美歌を耳にしながら、そんなことをひとり誓っておりました。
 歴史ある厳かな空間での式が終わり、華やかな会場での披露宴。乾杯の挨拶は緊張しすぎて、うまくやれたかも憶えていないけれど、たくさんの笑顔が溢れる素晴らしい宴でした。まったく違う環境で育った二人が出逢って、恋に落ちて、そして家族と家族が結ばれるって改めてすごい。最後の新郎新婦からご両親に宛てた手紙では、当然ながら私も号泣。特にS子からはよく家族の話を聞いていて、常々素敵な家族だなと思っていたので、お父様が涙をこらえるように天井を見上げながらS子の手紙を聞いていた姿が胸にぐっときました。父親がいない(いるけど、ある意味いない)私にとって、こういった光景はいくつになっても羨ましいものです。22年前に初めて友人の結婚式に参列してから、ちょうど倍の月日が流れました。体型しかり、色んなことが変化しましたが、席に置いてある名前だけはまったく変わりません。それでもそこそこ幸せなので、みなさん心配しないで下さい。

image2

2022.8.22 配信

最近のコラム

西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website