良き日│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#215

良き日

2023-03-27 11:39:00

 いまだ14年ぶりのWBC優勝の余韻にひたる日本列島であります。歓喜のその瞬間を私はリアルタイムで見届けることができました。山手線で隣に座っていた青年のスマホのおかげで。どこのどなたか存じませぬが、私の熱視線に気づいていたであろうにも関わらず、ご親切にありがとうございました。いやー、良かった、良かった。準々決勝のイタリア戦を東京ドームで観戦していたので、感動もひとしおです。初めて見た生大谷くんは、2階内野席から見下ろしても物凄く大きくて、近くで見たら5mぐらいあるのではと思いました。正真正銘のスーパースター、大谷翔平。ちなみに私は大谷くんが使っている西川のベッドマット『AiR SX』を愛用しています。言い換えると「私は毎晩、大谷くんと同じマットで寝ています」つまり「私は毎晩、大谷くんと寝ています」ということですね。そんな決勝と準々決勝だったのですが、その間の準決勝も非常に思い出深いものとなりました。なぜなら、その試合を帝国ホテルで見ていたからです。ロビーで隣に座っていた人のスマホではありませんよ。なんとまあ優雅にルームサービスの朝食をいただきながら。
 前日は、母の誕生日でした。食事のリクエストを尋ねたところ「ステーキが食べたい」とのことだったので(元気な老人は大概において肉が好き)、ここは奮発してピーター・ルーガーへ行くことに。2018年、母にNY旅行をプレゼントした際、一緒に行った思い出の老舗ステーキ店であります。恵比寿に開店したのは2021年。なかなか予約がとれず、この日まで来ることができませんでした。高い天井の広々としたメインダイニングには春らしく大きな桜が飾ってあります。「これ本物かしら?」と二人でコソコソ。立派な花を見ると造花と疑ってしまう庶民派おばさんの悲しい性。平日のランチ時でしたが、テーブルはほぼ満席でありました。私たちのテーブルの担当は笑顔が素敵なJOE。彼とのやりとりは全て日本語でしたが、まるでブルックリンにいるような気分になれました。オーダーした『Steak for Two』はTwoと言うものの、アメリカンサイズなので2人で食べるにはかなり大きめ。本店では食べきれずにドギーバッグで持ち帰りました。あの時、滞在していたクイーンズのアパートで食べた『Peter Lugar’s Steak with soy sauce&wasabi feat. SATOnoGOHAN』 最高だったなあ。今回もきっとお持ち帰りコースになると思っていたのですが、あまりの美味しさにあっという間に2人でペロリ。これをしょっちゅう税金で食べている岸田さんが羨ましくて仕方がない!ああ、美味しかったねえと満腹のおなかをさすっていると、母が「ここでもチョコレートくれるのかしら?」と小さな声で言いました。本店では食後に店の名前が入ったチョコのコインをくれるのです。「どうだろう?JOEにギブミーチョコレートって言ってみなよ」「やだ、やめてよ」そんな会話が聞こえたのかどうかはわかりませんが、JOEがチョコの金貨を4枚、軽やかなウィンクと共にテーブルに置いてくれました。母と二人、大満足。そして、せっかくのお誕生日なので、母には1日中楽しく過ごしてもらおうと予約していた帝国ホテルへ向かいました。何度も訪れたことはありますが、宿泊するのは今回がはじめて。お部屋に置いてもらうお花の手配で事前にメールのやり取りはしていたのでホスピタリティの高さはわかっていましたが、何とホテルが母の誕生日ということでお部屋をグレードアップしてくださいました。フロントでは「お母様、おめでとうございます。ささやかではございますが」と和紙で出来た筆立てをプレゼントされ、お部屋に案内してくださった方からも「お母様、本日がお誕生日ということで。おめでとうございます」とお声がけいただき、照れながらも嬉しそうな母。2ヵ月前、回転寿司店で誕生日を祝われた娘とえらい違いだわ。(第211回『おめでとう、私』参照)部屋のテーブルには頼んでおいたお花がきちんと置いてありました。大きな窓からは日比谷公園が一望できます。生まれて45年間、苦労と心配ばかりかけている私としては、少しでも母が楽しい時間を過ごしてくれたらこれ幸い。お部屋で少し休んでからは銀座の街をぶらぶら。夜は大きなお風呂にのびのび浸かって、寝しなのおしゃべり。そうして穏やかに過ごした誕生日の翌朝は、母のもう一つの願いである「映画『プリティ・ウーマン』みたいにルームサービスで朝ごはんを食べる」を叶えます。バスローブを羽織ってジュリア・ロバーツ気分でオムレツをもぐもぐ。クロワッサンをぱくぱく。そしてテレビではWBCの準決勝。「大谷くーん!」「村神様ー!」2人のジュリアの応援が届いたのか、日本は見事逆転勝利。何とも素敵な誕生日となりました。写真はジュリア・ロバーツとはほど遠い45歳の寝起きです。

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2023.3.27 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website