神宮球場
2024-09-23 10:00:00
あっという間に9月末。朝のウォーキングで感じる空気が少しずつ秋めいてきました。少し前に、今年も夏らしいことが何もできなかったと書きましたが、9月に入って唯一夏らしい思い出を作ることができました。それは甥っ子2号、Kちゃんと行った神宮球場です。
今年、中学生になり野球部に入ったKちゃんは、叔母さんが知らぬ間に大の巨人ファンになっていました。私のなかで、巨人ファンといえば、なんといってもフラームの田畑志真ちゃん。事務所で会うたびに「最近、巨人はどう?」と訊くと「坂本が云々、浅野が云々」と1の質問に10ぐらいで返してくれます。志真ちゃんに応援されたら、坂本も浅野も頑張れるよなあと思いながら、ぴかぴかした笑顔に見とれる先輩。ちなみに志真ちゃんは朝ドラ『おむすび』に出演いたします。うひ、楽しみ。そんな志真ちゃんに負けず劣らずの巨人ファンになったKちゃん、待ち合わせ場所にはジャイアンツのTシャツで登場です。「わあ!8番!原辰徳?」「丸だよ」叔母さん、ここ最近のプロ野球事情はさっぱりわかりません。それでも大好きなKちゃんと神宮に行けるだけで幸せです。「神宮初めて?」「うん」「まーたん、神宮で見るナイター大好きなんだ」「うん」照れ屋のKちゃんは、口数が少なくて高倉健さんみたいです。入場ゲートに向かう途中に、巨人グッズの売店がありました。ちらっと目を向けるKちゃん。「見てみる?」「いい?」「もちろん!」このあたりはサッカー観戦の際に迷いなく叙々苑弁当を手にとる甥っ子1号(第224回『ヒモ彼氏』参照)とはえらい違いです。オレンジ色のタオルが並ぶ売り場で、Kちゃんは帽子を手にとりました。黒地に『TG』の刺繍。「なにこれ、タイガース?」「東京ジャイアンツ」へえ、色々とあるものですなあ。「かぶってみたら?」手にとったキッズサイズ(4400円)は後ろのアジャスターを最大にしても頭デカめのKちゃんにはぎっちぎち。もう1つの大人用(6930円)を試してみたら、そちらはぴったり。しかし、そこで値段を見たのであろうKちゃんは「こっちで大丈夫かも」とぎっちぎちの方を選びます。「ねえ!全然大丈夫じゃなかったよ、Kちゃん!こっちを買いましょう」私のこれまでの人生において、頭にのせるもので、こんなに高いものを買ったことはありません。しかし甥っ子のためならえんやこら。金曜日の神宮、この日は完売御礼でありました。通路を抜けて、目の前にキラキラと輝く緑色の芝が広がる瞬間は何度味わっても胸がわくわくします。この日はKちゃんの希望で、外野レフト席を購入。しかしここで問題勃発。私が購入したPブロックはレフト席にも関わらずヤクルト応援席のため他球団の応援禁止とのこと。それを教えてくれたのは前列に座っていた巨人ファンの青年たちでした。すると右隣の女の子3人も「私たちも知らなくて」とバッグにしまったオレンジ色のタオルをちらり。さらには後方席にいるご夫婦も「せっかくユニフォーム持ってきたのに」と残念そう。「えー!ホームページに明確に書いて欲しいですよね!まあ、でもみんな気持ちは1つってことで!」と私が言うと、全員が「ですね」と頷きました。ちなみにホームページに書いてあった観戦ルールは『ビジター側は原則レフト側となりますが、試合によってエリアが一部変動する場合がございます』でした。その変動は当日球場に行かないとわからないのかな。そのあたりはもっと調べるべきでした。リュックに丸の光る棒やらメガホンを入れていたKちゃん。「ごめんね。ちゃんと調べれば良かった」「全然大丈夫」子どもに残念な思いをさせるのってこんなに心が苦しいのですね。母親でもない私が思うのだから、世の中のお父さんお母さんって本当に凄いよ。それでも試合が始まれば、応援している丸選手が目の前に!「こんなに近いと友だちみたいに感じるね」「いや、そんなことないと思うけど」「そうだ、ホームランとるためにグローブ持ってきたの。小学生の時に使ってたやつ」「まーたん、ピッチャーだったの?」「え?違うよ」「でもそのグローブ、ピッチャー用じゃん」なんとまあ。まーたん、35年間知らなかったよ。教えてくれてありがとう。そしてプレイボール。Kちゃんは焼きそばで、まーたんはビールです。夏の名残をただよわす神宮球場の空に声援が響き、白い球がスタンドに吸いこまれていきます。幼い頃、母が連れてきれくれたヤクルトvs大洋。目の前のフェンスに球がどんと当たった時のその音を、私は今でも憶えています。隣にいるKちゃんも、いつかこの日のことをふと思い出したりするのかな。モンテスとサンタナを何度も言い間違える叔母さんと過ごした夏の神宮のことを。
2024.9.23 配信
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website