ハワイの思い出│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#255

ハワイの思い出

2024-11-25 00:47:00

 先日、高校生の時に好きだったテイク・ザットのLIVEに行ってきました。5人いたメンバーも今では3人(死んだわけではない)。みんな立派なおじさんです。それでも目の前に彼らが現れれば気分はティーンエイジャー。30年ぶりにも関わらず、合いの手を完璧に入れられる自分に驚きました。若い頃の記憶ってすごいですね。当時、セーラー服を着てルーズソックスを履いて、魚屋でアルバイトをしていた私が考えていたことといえば「次のお給料が入ったら誰のCDを買おうかな。ルンルン」といったぐあいで、明細を見て税金の高さに白目になるなんてことはありませんでした。ああ、頑張って働いているのに!今月の所得税の爆上がりたるや!もう、やってらんない!そんなところに、住民税非課税世帯への3万円給付。そして現在検討中の基礎年金の給付水準の底上げ。真面目に働いて税金を納めている人が報われない社会って、いったい何なんでしょう。そういったことに声をあげるために選挙があるのですが、それでもなかなか声が反映されない悲しき現実よ。だからといって選挙に行かないという選択肢はありません(第253回『衆院選』参照)つい最近も世界中を揺るがしたアメリカ大統領選でありました。ハワイに到着した日、空港からワイキキに向かう車の中から、陸橋の上でTRUMPと描かれた真っ赤な旗を振っている人が見えました。「ああ、今日は大統領選ですね」そう私が言うと、UBERの運転手は「そうなの!」と興奮した様子で答え、それからはもうノンストップ。ハワイで生活をするのがどれだけ大変か。物価の高騰、子どもの教育の格差。なかなかこういった生の声を聞ける機会はないので、一生懸命耳を傾けました。どこの国でも国民の不満は同じようなものなのですね。車を降りる時、彼女は「トランプが大統領になったら、私はアメリカ人を辞めるわ」と言っていました。その夜は出歩くこともなく、部屋で缶ビールとポテトチップスを手に遅くまで選挙速報を見ていました。普段はNHK-BSのワールドニュースで数分しか見ることができないABC放送局の看板キャスター、デイビッド・ミュアーをこんなにも長い時間拝めるなんて。ああ、老眼鏡をかけるデイビッドも素敵。と愛でまくりの数時間、日本の選挙速報ではこうはいきません。ABCではウィスコンシン州での勝利が決まったあとにトランプの当確が報じられました。日本ではカマラ・ハリス寄りの報道を耳にすることが多かったので、意外な結末に驚きを隠せません。部屋の窓を開けるとしばらく外のざわめいた様子が聴こえていました。UBERの彼女は、これからどうするのだろう。アメリカ大統領選の日にアメリカにいられたことは、とても貴重な経験となりました。
 ハワイから帰国してしばらく経ちますが、いまだに穏やかな心が続いているのは、やはりたくさん海で泳いでいたからでしょうか。海には自然治癒力があるといいます。その力を信じている私は、毎日じゃぶじゃぶ泳いでいました。目に水が入らないように持参の水中眼鏡をかなりきつめにつけていたので、目の周りは常に内出血のような薄紫色。でも、そんなことハワイでは気にもなりません。魚を追いかけ、バタ足でジャバジャバ。息つぎで顔をあげれば、あらら、けっこう沖まで来てしまったわと犬かきでバタバタ。ああ、疲れたとくるりと身体をひっくり返して空を仰いでみたり、その次は適当に平泳ぎをしてみたり。ああ、自由って素晴らしい。しかし、そんなことをしていた時に事件は起こりました。私が気の赴くままに波とたわむれていると、少し離れたところからものすごい勢いで泳いでくる人影が。「大丈夫だ!落ち着きなさい!」普通にぶはぶはと息つぎをしている私に向かって、その人影は「さあ!つかまって!」と腕をのばしてきました。突然目の前に現れたポール・ジアマッティ風のおじさんに驚き「え?何ですか?」と水中眼鏡をはずすと、事態に気づいたおじさんも驚愕の表情。そうです。なんと私、普通に泳いでいただけなのに溺れていると思われてしまったのです。決して泳ぎが得意とは言いませんが、そんなにひどかったのだろうか。おじさんは何度も私に「君は泳げるのか?」と確認。「ええ、泳げますし、今も泳いでいました」そういえば20代の頃、彼氏と海で遊んでいた時にも「繭ちゃんの息つぎが地獄絵図」と言われたことがありました。自分では楽しく泳いでいるだけなのになあ。おかしいなあ。写真は素敵なサンセット。これ、今回のハワイで唯一自分(足だけ)が映った1枚です。もうね、自撮りとかしないんです。

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2024.11.25 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website