怪奇現象
2019-08-26 11:41:00
夏の恒例となったバレエ『お金を払えば誰でも出られるコンクール』(第57回『ナタリー』参照)に出場するのも今年で4回目となりました。千代の富士の言葉を借りれば「体力の限界!」、もうこれを最後にしようと思います。私が働いている会社は、夏が地獄のように忙しいのですが、それに付け加え週3のレッスン、そしてこの暑さ。41歳の身体には堪えまくりで休日には原稿を書く以外何もできません。なので、もうコンクールは今回を最後にして来年からはもっと自由に夏を楽しもうと思います。フェスとか行っちゃうよ。そんなこんなで最後のコンクール、悔いの残らぬよう頑張るぞ!と言いつつも、今原稿を書いている数日後が本番なのに、いまだに振り付けを間違えるという完成度の低さ。今年はドン・キホーテのキトリ第1幕のバリエーションを踊ります。バレエをご存知の方は「え!あんな難しいものを!」と思われるでしょうが、「踊れる」と「踊る」はえらい違いで、私は後者の方。ただただ踊るのです。それでも難しいバリエーションなので、今回はトウ・シューズを放棄。バレエシューズで踊ります。それでも、それでも難しいキトリ第1幕。もう原型をとどめないほど先生にアレンジをしてもらいました。振り付けのラストには18回連続のピルエット(上手な人はさらに回ります)があるのですが、もちろん私がそんなに回れるはずもなく、しかも本来ならば回りながら舞台の後方から前方まで斜めに進まなくてはいけないのですが、なぜか回るたびに後ろに進んでしまい「西山さん!どこに行くの!」という先生の声に「前に進みたいのはやまやまなんですけど!身体がいうことをききません!」と悲鳴をあげていました。「先生、これは怪奇現象ですね」「違います。西山さんの技術不足です」ああ、バレエって本当に難しい。でもね、その難しさを乗り越えた人々が創る世界は、本当に溜息が出るほど美しいのですよ。先月、オーチャードホールでマシュー・ボーンの『白鳥の湖~スワン・レイク~』を観に行きましたが、あれほどまでに胸が震える舞台を観られたことは本当に幸せ。男性ダンサーが演じる猛々しい白鳥たちの迫力に圧倒され、カーテンコールでは手のひらが真っ赤になるほどの拍手を送りました。ロンドンまでもう一度観に行こうかと考えているほどです。終演後は「美しさこそ正義!」と思い、おもわずその足で迷っていたワンピースを買いに行ってしまいました。でも休日は家で死んでレラなので、まだ1回しか着ていないんだけどさ。あーあ、本当に何もしていないまま夏が終わって行くなあ。目の前の8月のカレンダーを見ても、休日に入っていた予定が歯医者と美容院しかないってどうなのよ!しかも、この前美容院に行ったら雑誌が全て撤去されており、iPadで読むシステムに変わっていました。これは私にとって致命的。雑誌を読んで最新のトレンド情報を得る唯一の場所が美容院だったのですが、それを失ってしまった今、きっと私は10年経ってもセーラーズのTシャツを着てナタデココを食べてパラパラを踊っていることでしょう。だって、もうトレンドがわからないんだもん!iPadで読めばいいって?もちろん、美容院で挑戦しましたよ!でもね、おばさんは紙じゃなきゃイヤなの!めくりたいの!めくるめく感じでめくったりめくられたりしたいのよ!はあー、こうして時代に取り残されていくのかあ。話題のあおり運転に同乗していた人がネットで「ガラケー女」と揶揄されていますが、私もガラケーだし。あ、でも一応スマホも持っていますよ。iPhone5Sだけど。まあSIMカードを入れていないからwifiがないと使えない上に、最近ではそれさえも職場のロッカーに置きっぱなしなので持っていないも同然だったりします。それでも生活にまったく支障がないというのがすごいなあ。タピオカとか飲まないからスマホもいらないんだろうなあ。いやいや、こういう可愛げのないことを言ってはいけませんね。よし、コンクールが終わったらタピオカランドにでも行ってみるか!写真はひたすら練習をするとこうなりますよ、のバレエシューズです。それでもクルクル回ると後ろに進んじゃうんだよなあ。やっぱり怪奇現象としか考えられない。
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website