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カジノ
2024-06-10 11:28:00
またしてもジャッキー・チェンの話題で恐縮ですが、数日前に最新作『ライド・オン』の公開を記念して来日舞台挨拶が決定というニュースを見つけました。「絶対に行く!」と発売時刻に合わせて映画館のサイトをクリックしたところ、すでに1万5000人待ちという表示が。悔しいと同時に、これだけ多くの人がジャッキーを愛しているのだと幸せな気持ちにもなりました。チケットを手に入れることができた幸運な皆様、私の分までジャッキーに大きな拍手と声援を送ってきてください。そのジャッキーの故郷である香港に行った話を前回のコラムで書きましたが、この旅ではマカオにも足をのばしてきました。異国情緒あふれる街並み、坂の上にたたずむ聖ポール天主堂跡の美しさ。いつか行ってみたいと思っているポルトガルはこんな感じなのだろうかとユーラシア大陸の西の果てに思いを馳せます。ランチで食べた名物のポークチョップバーガーは美味しく、共に味わったマカオビールのすっきりとしたのどごし。そしてエッグタルトの控えめな甘さよ。香港に負けず劣らずマカオも素晴らしい場所であります。そしてそして、マカオといえば東洋のモンテカルロ、そうカジノであります。西山繭子、アラフィフにして初めてカジノに挑戦してきました。選んだ戦いの場は『ザ・ヴェネチアン・マカオ』。外観もさることながら1歩足を踏み入れれば、そこは非日常の世界。豪華絢爛な装飾がほどこされたロビーにはクラシック音楽が鳴り響いており、人工運河の上にはゴンドラに揺られる人々。そして名立たるハイブランドが集まったブティック。ああ、まさに人を狂わせる世界観。私も胸を高鳴らせながらカジノコーナーへと足を進めます。スロット、ルーレット、バカラ、ブラックジャック。平日の昼間からたくさんの人(9割が中国大陸からの観光客)がギャンブルに興じています。声を荒げて悔しがるおじさん、髪をふりみだして歓喜する女性。すごい場所だ。私の目当てのテーブルは「大小」、サイコロ3つの出目を当てる初心者にもわかりやすいゲームです。ここマカオでは大人気とあって、どこのテーブルも黒山の人だかり。さあ、どこで勝負するかと見回していると、ここで問題発生です。今回の私の軍資金は500HKドル、日本円にして約1万円です。それでちまちま遊ぼうと思っていたのですが、大小の最低ベットは何と500HKドル。1回しか遊べないやんけ!愕然とする私の目の前で、いたって普通のおばちゃんが札束をばんばんチップに変えている。国力の差を感じざるを得ません。恥をしのんでディーラーのおじさん(以下、鬼軍曹)に100HKドル5枚を差し出すと、鬼軍曹はゴミを見るような目でくしゃくしゃの紙幣を数え、たった1枚のチップを私の手元に滑らせました。この大小ですが1番わかりやすい賭け方はゲームの名前の通り大か小かを当てるもの。サイコロ3つの合計が11以上は大、10以下は小。さあ、どちらに賭けよう。テーブルにある液晶には出た目の履歴が表示されています。『小大小小小小大大大大』。カジノ未経験の私はこれまで「カジノはすべて運」と思っていました。しかし往路の機内で読んだ『深夜特急1』によると、どうやら違うらしい。大が続いているので、また大。いやいや、そろそろ小だろ。そんな中国語が飛び交うなかで、テーブルの上に次々とチップが積まれていきます。その間、鬼軍曹は鋭い眼光でその様子を見ています。チップが賭ける枠の線から少しでもはみ出していると、めちゃめちゃ怒られます。私は「大」にチップを置きました。これで負けたら1回で終わり。そして鬼軍曹から「No more bet」の合図。この合図と同時にチップを置いた客も、ものすごい剣幕で怒鳴られていました。ざっと見渡したところ、テーブルの上には日本円にして総額200万円ほどのチップが置かれています。そのわりには皆「ただの遊び」といった様子で表情は明るく、たった1枚のチップを賭けている私だけが固唾をのんでいるという状況。カシャカシャカシャという機械音が小さく響き、カップの中でサイコロが振られます。そして鬼軍曹がカップを開けると、出目は2、5、6の大。ひゃっはー!500HKドルが1000HKドルになりました!私にとっては大きな勝ちですが、鬼軍曹にとってはやはりゴミ。無表情で私の前に2枚のチップを滑らせました。この次はゾロ目で流れる(大小に関わらず親の総取り)可能性があると思い、しばし観察。そしてまた賭ける。勝つ。賭ける。勝つ。嬌声と札束が飛び交うなか最低ベットで賭け続けること3回、堅実な私は500HKドルが2000HKドルになったところで切り上げました。せこくて結構!ギャンブルで負けない方法、それは勝った時にやめること。大満足で帰路についたのであります。ペニンシュラでシャンパンでも飲もうかな。周大福で小さなピアスぐらいだったら買えるかな。楽しい想像をめぐらせているうちにフェリーは夕暮れ時の香港に到着。雨季にあって貴重な夕焼けの美しさよ。ああ、素晴らしき哉、人生。幸福感につつまれた私は、気持ちのおもむくままにトラムに乗り込みました。そして気づけば、競馬場の前に立っていたのです。おとうさーん!あなたの血、しっかり流れてまーす!さて2000HKドルの行方やいかに。次回をお楽しみに。
2024.6.10 配信
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website